初心者向け英語上達法

または「おうたのススメ」

by 大島 歩

…そもそもこういう原稿を書くということは「てめえが英語が出来るって言いたいってことだろ?ヘン!」という反応が返ってきそうである意味気が進まないのですが、このサイトの管理者からのご指名でもあり、恥と反感をしのんで書いてみたいと思います。

時々学生に、会社で他の人に、言われます、「英語がすぐにバーっとしゃべれるようになる方法ってないですかねえ」と。…あるわけねえだろそんなの…そんなものが僕にわかっていたらその教授法で商売でもして日本なら今頃億万長者になっているはずなのですが。曲がりなりにも(曲がりすぎか)ここまで来るのに一体どれだけかかったと思ってんだ、と。また、ここまでやっててもまだこの程度しか出来ない、と己の能力を忌々しく思うこともあります。

ここでは英語圏の国で現地校に通ったことのない人達が英語を上達させるにはどうしたらいいのか、を私のここまで辿ってきた英語学習の道(というほど大したものでもありませんが)を振り返りつつ、述べて行きたいと思います。やる気のある日本語ネイティブ、ドメびとのためのものです。

<種も仕掛けも…>

特に秘密や秘訣があるわけでもありません。勿体つけるつもりも無い、はじめからばらします。
やはり、歌、なのです、英語の。
歌を覚えるのです。英語ネイティブの、好きな歌手、グループを一つ決めて、その人の歌をとにかく覚えるのです。歌詞を覚え、発音を覚え、自分の血となり肉となる、というと空々しく聞こえますね、自分の舌となり歯となるまで自分のものにするのです。(やった人には、この「舌となり歯となる」という言葉の感じがわかっていただけると思います)

<特に好きな人がいないけど何を聞けばいいの?>

好きなものがない?じゃあビートルズか、カーペンターズでもいいでしょう、ただカーペンターズは結構マヂメのラブソングオンパレードですから学生には甘ったるいと感じる人もいるかもしれません。また、アメリカ英語の発音がいいなと思う人は米国のアーティスト、ブリティッシュがいいなという人は英国のを選ぶべきであることは言うまでもありません。

<CD買うときに気をつけること>

HMVだのタワレコだのに行きますと、洋楽でも現地からの輸入物と、日本の会社を通した、日本語のラベルのついたものと両方売ってます。直輸入の方がたいてい数百円安いのですが、ここは勉強のためです、後者の、日本版を買ってください、なぜかというとご存知の通り、日本の音楽会社は大変親切で大抵は歌詞カードと、その対訳まで付いた小冊子を入れてくれているからです。狙いは歌詞カードです(ただしスペリングの誤植、さらには対訳がひどいこともありうるのだが…)。

さあ、あとはこれがぼろぼろになるまで、何度も何度も曲を聴いて、歌詞を覚えてください。一緒に歌ってください。

へ?メンドクサイ?こんな単純なこと?…バカ!面倒くさくない語学の勉強なんてあるわけないだろうが。これまで僕らがここまで日本語を身につけるために、どれだけの時間がかかったと思うのか、小学校の漢字ドリルで何回おんなじ字を書かされて、漢字を覚えたか。「この言葉を使って短文を作りなさい」といって作らされたか・・・ただ、確かにめんどくさいものはなかなか長続きしないので、めんどくさくても繰り返してできそうな、好きなアーティストを選んで下さいといっているのです。好きな音楽だったら、義務感無しに、自分から覚えたくなるだろうから。覚えると言うことは、「全て」覚えると言うことです。サビの部分だけではもったいない。歌詞も1番から3番まで、初めから終わりまで、冠詞がaなのかtheなのか、名詞が単数か複数かも。当然書けるようにもする。好きなら、できるはずなのです。

<ちょいと思い出話>

僕は小学校6年生の時に、ゴダイゴという、ほとんど英語の歌しか歌わない日本人のグループ(「銀河鉄道999」を歌ったグループだ・・・そういってもわからないならもうしょうがない)のファンになりました。そのボーカル、タケカワユキヒデ(今たまにTVレポーターとかで出てくる)の英語はアメリカ英語でした。その後、ビートルズにのめり込みました。ちなみにビートルズが解散したのは1970年で僕が幼稚園に入る前です…これを読んでいる方たちにとってはもうどうしようもない昔に思える(いや、昔だということすら分らない状態かもしれません)だろうが…こちらは当然ながらイギリス英語です。

僕の中学校3年間はとにかくビートルズの歌を覚える・歌うことにその遊び時間の大半が費やされたといっても過言ではありません。小遣いは買い食い以外は全てビートルズのレコード(まだCDなんてない)に消えました。でも200曲以上ある彼らの曲、ほぼ全て(歌詞なら1番から3番まで)を覚えたことは、英語の勉強にどれほど役に立ったか知れません。

<どこが役に立つか。>

ある意味、当然といえば当然なのですが、歌うだけでも全部役に立つのです。
言語活動の4種の動作の内、3種までが同時に入っているのですから。

もう少し個別に何が役立つか見て行きましょうか。

<単語>

まず、単語、言い回しのストックが多くなる。これは誰にでも思いつくことでしょう。ただ、個人的な意見からすると、これは二の次で構わないのです。極端に言えば、覚えていてわからない単語が出てきたって、面倒くさくて辞書を引かないのなら、それはそれでも構わないのです。あとで「そういえばあれってナンだっけ」と思ったときにひいたって、それでもいいと思う。ぼくでも未だにひいておらず知らない単語があったりもする…

<語順>

もっと大事なことは、「さまざまな形の文例」、特に「語順」が身に付くことです。日本語と英語の語順がこれほど違うということが双方の言語習得上の大きな壁であることは高校まで英語を学んでいた人であれば異論はないと思います。他の欧州言語を中心とした民族に比べ大変なハンディです。「こういいたい」というときにそれに当たる相手の単語は思いついても、次にそれをいかに並べるか、というところで迷ってしまうことが多いはずです。

まずはSV,SVC,SVO,SVOO,SVOCの5文型、さらにそれぞれのパーツが節(主語+動詞を含むヤツ)になっていたとき。さらに知っていると圧倒的に強いと思うのが疑問文だと思います。

一例を挙げましょう。ビートルズの曲"Please Please Me"に"Why do I always have to say love?"と言う歌詞があります。"Why do I say that?" "I always have to say love"は学校の授業で習って知っていても、それ以上を知らずに、後者の文を前者の分に入れて疑問文にしたい、と言うことになったとすると、十人中九人以上、はっきり言ってお手上げだと思います。

それを、出来上がった、それなりに意味のある文章で覚えてしまうことができる、これは強いです。あとは単語の入れ替えですものね。(無論、それ以上細かいcollocationの問題などは百も承知、ですが今のところはある程度の初心者レベルというところでもあるので…)

そして、やはりESSのメンバーとしてはですな…

<リスニング・発音>

で、歌詞が目の前にあれば、音が鳴って、人がそれを歌っていればどの音・発音がどの文字に当たる音か、それがそれぞれどの位の「時間」をかけて発せられるものか、が分ってくるはずです。音符とのかねあいもないではないでしょうが、英語という言語における音の発せられ方のリズムというものがいかに日本語と違うか、がわかってくるはずです。「アクセント」(英語ではストレスというが)の意味合いも分ってくるかもしれません。発音も、よ~く聞くのです。英会話学校など行かなくても、ネイティブの発音がいくらでも聞こえてくる。

他の原稿でも書くかもしれませんが、warをワーなどと発音している人も、workをウォークなどと発音している歌手などどこにも、どこにもいないはずです。Becauseをビキュースだの、巻き舌で発音しているネイティブなど皆無です。巻き舌の"r"の発音は、スペリングの中に"r"があるからこそ、ああいう音が出されているのだ、喉から出てるように聞こえるアメリカっぽい"ae"「ェア」の発音もaのあるところ以外ありえないのだ、ということに実感を持って気が付くと思います。これまで、「英語っぽく」、「ネイティブっぽく」発音しようとして「気取って」発音していた音がいかに間違いであったか、自分にしか通じない(通じてないんですよ、残念ながら)世界であったか、に早く気づいてほしいと思います(しかもスピーチ大会の会場などで高飛車なジャッジに指摘されて「ええ?そうかな」などと半ば反発しつつそれを発見する必要もありません。こっそり、自分だけで悟り、改善を図ることが出来るのです)。

上記の観点からすれば、まずは音楽的にはゆっくりのテンポのものを選んで、歌詞カードを見て、どういう音が各単語に対応しているか聞いてみる。どうしようもなければ、全部辞書を引いて発音記号を書いてみる。…えーメンドクセー、じゃない。一行、まず一行分だけでいいからやってみよう。単語のところに全部発音記号をふってみよう。そしてまた曲を流して、どんな音がその発音記号と合うのか。一回分って、覚えてしまえばあとは同じです。

脱線しますが、こんなこと、通常の生活の中で、規定のリズムを崩さずにできるのは学生さん、本当に、本当に今のうちだけよ。しかも年とればとるほど、耳と口は絶望的状態に近くなっていくのだから。一回、固まってしまったらもうダメです。身の周りでいなかったでしょうか、おじいちゃんやおばあちゃんで、何回言っても(例がまた古くて恐縮だが)「ピンク・レディー」と言えずに、「ピンク・レデー」としか言えない人が。彼らの耳には「ディ」と「デ」の区別ができないのです。耳で聞いてわからないものが、自分の口で正確に出せるわけが無いのだ。LとRも、VとBもおんなじ。

よくわからなかったら、辞書の一番後ろにはたいてい付録で、各発音記号はどう発音されるべきものか、というのが載っています。これまでそんなもの見たこともなかった、という人にはけっこういろんな発見があるはずです。初めはきっと、耳に引っかかる部分が少ないかもしれない、でもだんだんわかる・聞こえる部分が増えてくるはずです。

「えーだってさー」じゃない。どんな意味があるか、最も簡単なところでお見せしましょうか。だれでも、小学生でも知ってる有名な英語のフレーズ"Oh, no!"。これ、普通なんと読むか、または振り仮名が書いてあるか。「オーノー」だ。 でも辞書の発音記号はどうなっているか見てみよう。…よほどの英語好きでもなければ、こんなときでもなければわざわざ"Oh"なんて単語を辞書で引く機会はそうそうあるもんじゃあないぞ。なんと書いてあるか、そう[ou]だ。つまりこれは[o]と[u]の二つの母音から成り立ってるのだ…そういえばどっかで二重母音なんていってたことあったっけ…。そう、だからOhは「オウ」なのだよ。Noも「ノウ」。なんで英語が英語らしく聞こえないか、というとこういう「違い」の積み重ねなのです。…で、もちろん、本物の歌を聴いてみれば、「オウ」。 ここまできいて欲しいのです。

やだ?めんどうくさい、こんなことやってらんない?自分から動かずになんかできるようになんてなるわけ無いのです。自分からインプットしようと動かない人がいいアウトプットなんか、少なくともネイティブでない人間にとっての言語学習においては、出せるはずありえない、と思います。

そう、やや話はずれますが、よく、新聞に「英語のシャワー、マラソンのように毎日聞いているだけで、突然、英語が聞き取れるようになる!口から英語があふれ出る!」って教材の広告が出てますが、個人的にはそんなこと奇跡でもなければありえないと思います。その教材を持ってる人にも聞いたのですが、やることはとにかくそれを毎日聞くのだと、テキストもなく。その人が英語ができるようになってるかって…?私の見るところ、今の時点では(少なくとも現時点では)絶望的です。…だって、どんな音がどんな単語のどんなスペルに当たるかもわからないのに、聞き取れるようになるわけがない、「意味のわからない聞き取り」なんてめちゃくちゃな話、あるわけがないでしょう、と思うのです。すくなくともあの広告文句だけでは誤解を招くと思うのですが如何でしょう(もし、私の理解が間違っているようでしたらどなたか教えて下さい、ことと次第によっては本部分、取り下げます。ま、本当に「毎日」聞く人がどのくらいいるか、という問題もありますが。)私たちはあんな広告・業者にはだまされずに、きちんと我らの楽しい「テキストつきの教材」で勉強しましょう。

そうそう、発音。上記の発音記号も歌手と全く同じに口を動かすのです。「似せる」のではなく、「同じ」になるようにするのです。何回もきいて、頭の中に、耳の中にネイティブの音を入れてしまうのです。そしてそれと同じ音を口が出せるように何度でも繰り返してやる。ナニ、まねしてるうちに声の高さまでむこうと一緒になっちゃうよ?、けっこうけっこう。音の高さぐらいあとで自分でどうにでもなる。ここでは発音を身につけるのだから。この点、CDはテープやレコードと違って繰返しが容易にできるし、しかも何度繰り返しても媒体そのものがあまり痛まないのでいいなと思います。で、一緒に、同じに近づけるべく歌っていると、口が、舌が、口の中の筋肉が変わってきます(日本語と英語を話すときに使う口の筋肉は違います。何を大袈裟な、と思うかもしれませんが、その違いが分ってきたらかなり「できてきた」ことになると思います。)

もすこし脱線すると、日本語ほど発音が楽な言語も珍しいし、英語ほど発音が面倒くさい言語も珍しい、という話を聞いたことがあります。日本語は母音5種類しか無いし、子音も少数の例外を除いて母音とセット、母音も子音も複合のものなどほとんどない。母音の複合はあるが概念からして別物だと言語学のド素人ながら思う。のですから、とにかくマネ、まね、真似するしかないのです。きいたことあるでしょ、「学ぶ」という言葉は「マネぶ」から来たものだというお話。

…ただし逆に、この話をするといつも思い出すのだが、日本語において全ての子音は母音とセットだ、だから日本人の子音の発音はまるでダメ、と有名な英語の某先生が何かというといつも鬼の首を取ったように書いているのを見るが、必ずしもそうでは無いと僕は思う。例えば、「スペシャル」というときに、(少なくとも関東の人で)「ス・ペ・シャ・ル」と、「ス」に関してSUと(ああ発音記号が使えないと余計面倒くさい)、ウの発音をわざわざ入れて発音している人がはたしているだろうか。大抵、「spe-syaru」という感じに、スは息だけシュと出してすぐ次の「ペ」につなげているはず。(関西の方の発音は、少なくとも日本語に関して言えば、この場合でもきちんとスはスと発音してから「ペ」に行っている気がする…何の話をしているか、わかっていただけますかな?)つまり少なくとも関東の方は、ここで"s"を子音とセットでなく、通常の子音だけとして発音する習慣は無意識にせよ持っている、ということなのです。これは他の子音にも言えることだと思います(「くらげ」「芥川龍之介」というときの"k"など)。

ある程度自信ができたら、ESSの人達でカラオケに行って、「英語シバリ」をやってもいい。

 そして、これだけがんばってやれば、その曲、その歌に関して間違いなく身に「口に・目に・耳に・手に・頭に・ココロに」つければ、どんなにドメな人間でも、あなたは「その部分に関してはネイティブ」なのです。間違いなく、ネイティブと同じ物を持っていることになるのです。どの英語の作業においても、それはあなたの「ネイティブな部分」になるのです。大きな自信になります。そしてこれが貯まれば貯まるほど、それは相乗効果を生んであなたの言語操作能力を高めていきます。

信じて、やってみてください。…ただ、すぐには見えないよ、すぐには。

<あとがき…本文より長いんじゃねえのか>

 白状しますと私はいわゆる純ジャパか、というとそうではありません。しかし一般にイメージされる「帰国」か、というとそうでもありません。父の仕事の関係で小学校6年の夏に英国のロンドンに行き日本人学校に入学、中学校3年の冬に帰国しました。その後、また英国の大学に1年間留学しました。

「ナーンダインチキ。やっぱ帰国ジャン」と思うかも知れません。インチキはインチキかもしれません、確かに英国の経験ゼロであったら僕の英語は今のレベルにはないでしょう。しかし、日本人学校の経験者ならばわかってくださると思うのですが(というより信じて頂くしかないのですが)、地域や環境の違いこそあれ、全日制(月曜から金曜まで毎日通う)の日本人学校に通うということは、日本の社会で育つことに限りなく近いのです。「でも、一歩外へ出れば現地、でしょう?やっぱり違うのよ。」とよく言われますが、非常に怪しいものです。日本人学校のカリキュラムは国内の公立校と全く同じ、教師も文部省(文科省)が派遣しています。違うといえば、その学校のある国の言語の会話が週3時間あったという程度です。これも今はどうか知りません。中学3年ともなれば日本の国内の高校受験を意識した授業・進学指導もあり、家に帰れば日本からの雑誌や本を読んでいる。

 つまりこういう中に生活していれば、英語などできなくても(学校の成績は別にして)、何の不自由もないのです。私にとっても、母語は日本語のみ、英語はいつまでたっても外国語であり、いまだに英語で何を口にしても常に不安はつきまといます。また仕事場でも「英国暮らし」が「ばれて」しまえば、上に書いたような事情を言ってもほとんどの場合理解して頂けない、謙遜だろうとして英語に関してそれなりの期待をされてしまうこともあり、ますます不安と緊張は増すばかりなのです。

 ただそんな中でも、私にとっては「歌」との出会いという幸運(ってほどじゃ無いけどさ)があり、それが今の力に少なからず貢献しているのかもしれないと思います。その幸運は、他の人にも十分に当てはまるのではないか、と思い、本文ご披露しました。

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